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薬物の生理的な回復

依存性薬物の作用機序は様々ですが、その多くに直接的にせよ間接的にせよ共通しているのが、脳内で本来働いている物質と同様に働き、脳がその違いを区別できないアゴニストとしての作用によるものです。典型的な例としてはオピオイドが挙げられます。特定の受容体に対して本来正常に機能している内因性の脳内物質に代わり通常ではありえないほど強力かつ長時間アゴニストとして作用することによって麻薬的な効果を発現します。また、それらに対して拮抗的に作用するのがナルトレキソンやナロキソンなどのアンタゴニストです。

身体的依存性のある薬物の血中濃度が低下してくると、生理的・心理的に不快で多彩な症状が離脱症状(=禁断症状)として表れます。この身体的依存の結果である激しい離脱症状の辛さは、再び薬物を摂取したいという欲求の強力な誘因の一つとなります。離脱症状はアゴニストとして働いていた物質が単に身体にとって不十分になれば程度の差はあれ生じますが、個々の薬物の摂取後の血中濃度や薬物動態と症状の発現や程度は必ずしも相関しないことが多いようです。この時もし治療から脱落せずに再び薬物を摂取せずに断薬に成功すれば、慢性的な薬物摂取のため低下していた内因性アゴニストの分泌や受容体の数、感受性等が徐々に回復して正常化していくことで離脱症状も同様に徐々に薄れていき、最終的には離脱症状と身体的依存の状態から完全に回復します。しかし一般的に行われている治療では、それでもまた薬物中毒者に戻ってしまう人々の割合、すなわち再発率は高いことが多くの研究によって明らかになっています。

薬物における耐性現象、そして身体的依存による離脱症状の基本的な説明としては、人体のホメオスタシスがあります。薬物摂取による慢性的な過度の多幸感などは人体からすれば明らかに異常な状態であるので、慢性的な薬物摂取によって異常な状態になった人体を、薬物が摂取されたまま正常なバランスを取ろうとする働きの結果、これが耐性と身体的依存の形成と急な断薬による離脱症状という形を取って現れるのです。また、耐性が極度に上昇した者では、未使用者にとっては致死的となる量を摂取しても平気である場合が珍しくはありません。

薬物の離脱症状

離脱症状は、摂取した薬物が身体から分解や排出され体内から減ってきた際に起こるイライラをはじめとした不快な症状のこと。このような離脱症状を回避するために、再び薬物を摂取することを繰り返し薬物に依存することとなります。またアルコールのように、震戦(=手の震え)などの身体に禁断症状が出る場合もあります。

依存性薬物の中には、連用することによってその薬物が効きにくくなるものがありますが、これを薬物に対する耐性の形成と呼びます。薬物が効きにくくなるたびに使用量が増えていくことが多く、最初は少量であったものが最後には致死量に近い量を摂取するようになることすらあります。耐性が形成されやすい薬物として、アンフェタミン類、モルヒネ類(オピオイド類)、アルコールなどが挙げられます。


アンフェタミン

アンフェタミンは合成覚醒剤の一種です。食欲低下や体重抑制、およびナルコレプシーや注意欠陥多動性障害 (ADHD) などの治療に用いられています。能率向上や娯楽目的での濫用は、ほとんどの国で違法とされています。密造と濫用がヨーロッパ諸国で横行し、主にフェニルプロパノールアミンから合成した硫酸アンフェタミンの形で出回っています。さらに、アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリア、カナダなどの国々ではナルコレプシーやADHDの治療に用いられるため、処方されたアンフェタミンが横流しされ、高校や大学で最も頻繁に濫用される薬剤の1つとなっています。急性中毒による症状として、精神病、失見当識、一時的な統合失調症様症状、攻撃性の増加、妄想、開口障害、下痢、動悸、不整脈、失神、異常高熱症、および痙攣を起こし昏睡に至る反射亢進が挙げられる。アンフェタミンは常用すると耐性を生じやすく、望まれる効果を得るために必要な用量が増すことがあるため習慣性が生じやすくなっています。アンフェタミン依存症となった患者には、不穏状態、不安、うつ、不眠、自殺衝動といった症状があらわれます。尿検査によってアンフェタミンの存在が確認できる患者には、入院が必要とされることもあります。

モルヒネ

モルヒネは、アヘンに含まれるアルカロイドで、チロシンから生合成される麻薬のひとつです。「モルフィン」「モヒ」とも言います。ベンジルイソキノリン型アルカロイドの一種。分子式 C17H19NO3。分子量285.4。モルヒネからは依存性のきわめて強い麻薬、ヘロインがつくられます。CAS番号は57-27-2。毒としてみた場合、非常に強い塩酸モルヒネを例にとると薬物でヒト(経口)LD50:120-500mg/kg。マウス皮下注 (LD50) 456mg/kg、マウス静注 (LD50) 258 mg/kg。乳児・ 小児では感受性が高くなっています。数量にするとヒトに対し6-25gであり、数分から2時間程度で死亡してしまいます。江戸川乱歩の短編「屋根裏の散歩者」で使用されていることでも有名です。

薬物依存症

薬物依存症は精神疾患の1つで、脳内の神経伝達物質として報酬系などに作用する薬物である「脳に直接作用する物質」に対する依存が多い状態です。ほかの依存症には、脳内麻薬が多量に分泌する「状況への依存」(ギャンブル依存症、ショッピング依存症など)や「人間関係の依存」(共依存など)があります。医学上は、あらゆる薬物への依存が薬物依存症に含められます。また「薬物」を法制上禁止されている薬物という意味合いに捉え、特に麻薬や違法とされる向精神薬、覚せい剤などによる薬物依存症のことを指す言葉として用いられることもあります。一般的に幻覚剤には強い依存性はなく、さらに他の薬物の依存症の治療に良好な結果が見られるものもあるとされています。薬物依存の症状としては、精神的依存と身体的依存があります。


精神依存

使用のコントロールができなくなる症状。使用を中止すると、精神的離脱症状として強い不快感を持ち、該当物質を探すなどの行動がみられます。

身体依存

使用を中止することで痙攣などの身体的離脱症状(退薬症状、いわゆる「禁断症状」)が出現することがあります。 薬物依存症は、意志や人格に問題があるというより、依存に陥りやすい脳内麻薬分泌を正常に制御できない状況が引き起こした「病気」です。「まだ大丈夫」と問題性を否認しているうちに、肉体・精神・実生活を徐々に破壊していきます。家族などの周囲をも巻きこみながら進行し、社会生活や生命の破滅にいたることも稀でありません。また、精神疾患の強迫性障害に伴う気分変調を紛らわすという目的で薬物に依存し、アルコール依存症などに陥る場合もあります。それだけでなく、ニコチンに対する依存症である喫煙のように、依存者自身やその周囲にいる他者へ受動喫煙として悪影響を与えることで、生活習慣病や重大な死因、気管支の疾患や胎児へ影響し、健康に対する影響が社会的に甚大である薬物もあります。アルコールへの依存も、未成年者の脳の発育や胎児、生活習慣病や肝臓の疾患に影響します。これらを日本での社会的な費用に換算すると、喫煙は社会全体で約4兆円の損失、アルコールは社会全体で医療費や収入減などを含め約6兆6千億円になるとされています。